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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

蛇を追って二三歩進むと、開いたドアから、室内の異様な光景が眺められた。

「ア、明智さん。ここでしたか。……だが、この有様は……」

波越警部は二の句がつげなかった。

何という陰惨無残の活人画であろう。青ざめた蝋人形の様に、転がった二人の娘。断末魔の苦悶をそのままに、血まみれの指で、空間をかきむしった、怪賊の死体。夢見るが如く、ボンヤリ佇んでいる明智小五郎。

「明智さん。僕ですよ。波越ですよ」

ポンと肩を叩かれて、明智はやっと正気に返った。そして、警部に問われるままに、有りし次第を語った。

「ヤ、御苦労でした。大成功です。賊の首魁が死んでしまったのは、少々残念だが、これも天罰と云うものでしょう。手下共は皆あちらの部屋に縛ってあるのですね。一網打尽でしたね」

そこで警部は、刑事達に命じて、気絶した二人の女性をベッドのある部屋に運び、人工呼吸を施させたところ、二人とも、間もなく意識を取り戻した。それがすむと、船尾の部屋の七人の小賊共を引立てて、警察ランチへと乗移らせた。

それらの処置が一段らく終った時、元の船室に立戻った警部が、ふと思い出して、まだ夢醒め切らぬ面持の明智に云った。