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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

そう、今は気も心も折れて、ただ悲しさに打ち勝たれて、地に冷たく額を押しあて、咽び泣いている浮藻の姿は、つかねられた装束さながらであった。

しかし浮藻の頭の横に、石像のように立つものがあった。

少し以前から物の蔭に佇み、あさましく凄じい姉妹二人の、恋の争いを見聞きしていたが、出場を失って出かねていたところの、大蔵ヶ谷右衛門がこの時出て、浮藻の傍に立った姿――その姿に他ならなかった。

大鉞を地について、その柄の石突きに両手を乗せ、その手の甲へ頤をのせ、黙然として動かなかった。

が心では考えていた。

(これもみんな小次郎のためだ!)と。

そうして窃かに決心していた。

(今こそ鉞へ血を吸わせてやろう)と。

(彼さえなくば主人ご姉妹に、みにくい争いは起こるまい!)

(小次郎は俺が殺す!)

――この時桂子の右の手から、如意が足もとへ力なく落ちた。

(あさましさよ!)

と彼女は思った。

(救いはないか※(感嘆符疑問符、1-8-78) 救いはないか※(感嘆符疑問符、1-8-78))

浮藻の泣き声が高くなった。

(おおおお妹にも救いはない!)

暗い谷を越した山の中腹の、猪小屋にともされた燈の光は、この時もなお見えていた。