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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
裾踏みしだきツカツカと進んだ。
と、遥かの峰の方から、あたかも颪が渡ったかのように、谷をうずめて群れ立っていた木々が、揺れ、靡き、騒立ち軋り、悲しそうに啼く猿猴の声が、腸断つように響き渡った。
と思う間もあらばこそであった。
四方の木々から庭を目がけ、飛礫のように十、二十、百、二百と無数の猿が、飛び下り馳け下り転び落ちて来た。
庭は猿で埋ずもれた。
桂子と卯ノ丸との間を距て、卯ノ丸と浮藻との間を充たし、一寸の隙も一分の空間も、この地上には見られなかった。
広い館の前庭は、毛皮を敷いたそれのようであった。
牡の猿、牝の猿、子を抱いた猿、老いたる猿――猿の数は千にも余るであろうか、ことごとく地にひざまずき、王なる卯ノ丸の真似をして、胸に両手を合せていた。
そうして桂子を見守った。
今は啼き声は聞かれなかった。
声のない生きた猿の毛皮は、しかし漣の打つように、絶えず起伏し動揺した。
王なる卯ノ丸の真似をして、桂子へ頭を下げるからである。
その中にあって雪のように白い猩々卯ノ丸の姿というものは、卯の花が円く叢をなして、そこに花咲いているようであった。
が、その背後に若い女の艶かしい装束がつかねられてあった!