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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

「いずれにいたしても十津川を去るべく、ひそかに用意いたすよう」

「かしこまりましてござります」

また数日の日が経った。

ふと宮家は詩情を催され、お供もつれられずただお一人で、館の裏庭へおでましになり、咲き垂れている藤の花の上に、朧ろに出ている月を仰ぎながら、朗詠を口誦さまれ彷徨われた。

中門の側まで来た時であったが槻の木の大木が立っていて、その裾に萩と卯木との叢が、こんもり丘のように繁っていたが、その蔭から男女の声が、ヒソヒソとしてきこえて来た。

「兄の頼みじゃ、妹の身として……」

「いかな兄上のお頼みでも、勿体ない、だいそれた……」

右源次と呉服との声であった。

「はてな」

と宮家はおぼしめし、じっとお耳を澄まされた。

「われらが事を行なわねば、大弥太が事を行なうまでじゃ! ……きゃつに功を奪われてはのう!」

「大弥太めが※(感嘆符疑問符、1-8-78) ……憎い憎い大弥太!」

「兄上は優柔不断! でもとうとう決心されて……玉置、芋ヶ瀬の荘司の方へ、……先刻内通に行かれた筈……」

「ええまア穢らわしい、聞けば聞くほど……あそこにもここにも不忠者ばかりが……」

「父上には昨日よりお留守……で、今夜あたりが絶好の機会……呉服たのむ、やってくれ!」