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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

た。

「……この日頃まめまめしく、よう呉服かしずいてくれた。……その誠心忘れはせぬ。……別れじゃ! ……が、命さえあれば……縁さえあればまた逢えよう。泣くな! ……呉服、健かにくらせ……」

宮家の御声も湿りを帯びておられた。

「宮様!」

と呉服は咽びながら云った。

「お別れとは! ……夢にも! ……このような! ……おおこのようなお別れとは!」

若い気高い美貌の先達と、そう思ってひたむきに恋した人が、雲の上人も雲の上人、尊い宮様であったとは!

しかるにどうだろう、その宮様に、朝夕お仕えすることが出来、ご寵愛をさえ蒙ったとは!

(女の身としてこれ以上の誉れ、これ以上の幸福はありはしない!)

こう思って呉服は身も心も、捧げつくしてお仕えした。

その宮様と兄達の裏切りや、一族の大弥太の裏切りからして、このようにあわただしくこのように飽気なく、お別れしなければならなくなったとは!

お別れ申し上げた宮様の前途が、はたして幸福でご安泰であろうか?

いや、いや、いや、そうではない!

行く手には敵や艱難が牙を磨いで待っている。

(どうしてやれよう、どうしてお別れ出来よう!)