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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

「範覚さん疲労れたの?」

「アッハハハ、どういたしまして、この範覚という人間は、つかれを知らない人間でしてな、まして旅などにはつかれませぬよ」

「わたしも疲労れを知らない女よ」

「ずいぶんお健康でございますなあ。はじめはそうとも思いませんでしたが――はじめはナ――こ、こんな娘っ子、体も心もすぐに疲労れて、クタクタになるものと思っていたのでしたが、どういたしまして反対で、お精神もお肉体も健康なものです。範覚ことごとく参ってしまいましたよ」

「わたしはそれとは反対でしたわ、はじめはわたし範覚さんて人、精神も肉体もとても強く、悪人だと思ったのでしたが、つきあって見るとそうではなくて、善良で弱くて親切な人ね」

「へい」

と範覚はひどくテレた。

「案外そうでもないんですが、心も姿もあんまり綺麗で、一点の陰影も濁りもない、そういう人間に――それも女に――そうです女に限るんで、特に私には限るんですが――そういう女にぶつかりますと、ついこっちだって反省してしまって――反省すると損なんですがねえ。――宝の山に入りながら、ついどうにも手を空しくしてしまう――というやつ反省から来るんですからねえ。