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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

「こいつは変だ」

と範覚は云った。

「浮藻様道に迷いましたよ」

でも浮藻は平然としていた。

「では野宿しましょうよ」

「野宿? へえ、恐かアありませんか」

「範覚さんとご一緒ならねえ」

「へい」

涙がこぼれそうであった。

(俺らをこんなに信じているのだ!)

可愛い妹のように思われるのであった。

(女にも色々あるものだなあ。姥と浮藻殿との相違はどうだ!)

大して悪人でない範覚は、感激しないではいられなかった。

もうすっかり夜になり、山と谷と曠野と森と、谷川との世界が黒一色に、漆のように塗りつぶされた。

と、行く手の空に高く、燈の光が橙黄色に見えた。

「おや、あんなところに燈火が……」

「変ですねえ……行って見ましょう」

そこで二人は辿って行った。

谷川の岸の竹藪の前に、荒れ古びてはいたけれど、かなり大きな家があり、その前庭の一所に、高燈籠がつくられてあり、そこから燈の光が射している。

「高燈籠を点けているからには、道に迷った旅の者などに、宿を奉謝する家なのですよ」

範覚は喜んでこう云った。

「道に迷うようなこういう山路には、こういう宿があるものと見える」

「早速お宿を願いましょうよ」