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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
浮藻もさすがに嬉しそうに云い、
「世間って親切なものですわねえ」
「へい、親切でございますとも」
二人はその家の門の戸をあけた。
「ごめんください」
と声かけた。
誰も返辞をしなかった。
暗い土間から見えるものは、古びた板戸としみのある古襖と、鼡の走っている破損れた床と、それらをぼんやり照らしている、今にも消えそうな紙燭とであった。
「うすっ気味の悪い家ですねえ。……といって夜道を行きもならない。……燈火がともっているからには、住人があるには相違ない。……どこかへ用にでも行ったのでしょう。……叱られたら詫びるとして、ともかくも上がっておりましょうよ」
こう云って範覚が上がったので、浮藻も従いて上がって行った。
燈火の側へ坐り込み、家内の様子をうかがったが、蛇が鼡でも追っているらしく、天井裏でけたたましい音が、ひとしきり聞こえて来たばかりで、ほかに物音はしなかった。
しかしその時庭の方から、物を磨ぐ音が聞こえて来た。
「気味が悪いや」
と範覚が云った。
「ありゃア刃物を磨ぐ音だ」
「範覚さん」
と浮藻は顫え、
「出かけましょうよ。行きましょうよ」
「ナーニ」
と範覚は立ち上がった。