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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

「それより行って確かめてやろう」

範覚は庭へ下りた。

一人となった浮藻の耳へ、刃物を磨ぐ音が聞こえなくなった。

(まあよかった)

と浮藻は思って、安心の溜息を一つついた。

が、しかしすぐに刃物を磨ぐ音が、裏の方から聞こえて来、そっちへ走って行く足音が聞こえた。

(範覚さんが追って行ったんだよ)

浮藻はそう思って耳を澄ました。

刃物を磨ぐ音はすぐに止んだが、竹藪のある方角から、やがてまた不気味に聞こえて来、そっちへ走って行く範覚の、いらいらした足音も聞こえて来た。

(どうなることか※(感嘆符疑問符、1-8-78))

と思いながら、浮藻はガチガチ歯を鳴らしながら、なお聞き耳を立てていた。

と、不意に悲鳴が聞こえ、つづいて嗄れた笑い声が聞こえ、ザワザワと藪の鳴る音がし、その後はひっそりと静かになった。

(あの悲鳴は? 範覚さんでは?)

フラフラと浮藻は立ち上がった。

とたんに眼の前の古襖が、風と塵埃を立てて仆れた。

「あっ」

と思わず声を上げ、浮藻はその方へ眼をやった。

仆れた襖の奥の部屋に、三個の女の死骸があって、その一個が断末魔の足で、襖を蹴ったに相違なく、その足が痙攣を起こしながら、だんだんに延びて行くのが見えた。