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なにがわたしをこうさせたか
何が私をこうさせたか
金子 ふみ子
――獄中手記――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,571 字 · 383 页
シグナルがまだ下ってない。ちょうどいい。もう来るだろう。
叔母の家の東の高台から見られぬよう、私は、踏切り近くの土手の陰に隠れて着物を着替えた。前の着物はくるくると捲いて風呂敷の中に包み、土手脇の草叢の中に突込んで置いた。
土手の陰に蹲って私は汽車を待った。だがいつまで経っても汽車は来なかった。やっと私は汽車がもう通過した後だということを知った。
それを知ると、私は、今にも誰かに追跡せられ、捕えられるように思って気が気でなかった。
「どうしようか……。どうすればいいのか……」
澄みきった頭の働きは敏速だった。私はじきに今一つの途を思い出した。
「白川へ! 白川へ! あの底知れぬ蒼い川底へ……」
私は踏切りを突っ切って駆け出した。土手や並木や高粱畑の陰を伝わって、裏道から十四、五町の道程を、白川の淵のある旧市場の方へと息もつかずに走った。
淵のあたりには幸い誰も人はいなかった。私はほっと一息ついて砂利の上に殪れた。焼けつく熱さにも私は何の感じもしなかった。
心臓の鼓動がおさまると私は起き上った、砂利を袂の中に入れ始めた。袂はかなり重くなったけれど、ややともすればそれが滑り出そうであったので、赤いメリンスの腰巻を外して、それを地上に展げて、石をその中に入れた。