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なにがわたしをこうさせたか

何が私をこうさせたか

金子 ふみ子

――獄中手記――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,571 字 · 383 页

青空文庫

それからそれをくるくると捲いて帯のように胴腹に縛りつけた。

用意は出来た。そこで私は、岸の柳の木に掴まって、淵の中をそおっと覗いて見た。淵の水は蒼黒く油のようにおっとりとしていた。小波一つ立っていなかった。じっと瞶めていると、伝説にある龍がその底にいて、落ちて来る私を待ち構えているように思われた。

私は何だか気味がわるかった。足がわなわなと、微かに慄えた。突然、頭の上でじいじいと油蝉が鳴き出した。

私は今一度あたりを見まわした。何と美しい自然であろう。私は今一度耳をすました。何という平和な静かさだろう。

「ああ、もうお別れだ! 山にも、木にも、石にも、花にも、動物にも、この蝉の声にも、一切のものに……」

そう思った刹那、急に私は悲しくなった。

祖母や叔母の無情や冷酷からは脱れられる。けれど、けれど、世にはまだ愛すべきものが無数にある。美しいものが無数にある。私の住む世界も祖母や叔母の家ばかりとは限らない。世界は広い。

母のこと、父のこと、妹のこと、弟のこと、故郷の友のこと、今までの経歴の一切がひろげられたそれらも懐しい。

私はもう死ぬのがいやになって、柳の木によりかかりながら静かに考え込んだ。