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なにがわたしをこうさせたか
何が私をこうさせたか
金子 ふみ子
――獄中手記――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,571 字 · 383 页
寺院生活は表面はなはだ平和に見える。だが、若い者にとっては平和のみが絶対の価値ではない、若いものには平和なんかはどうでもいい。それは去勢された人間の望むことだ。若い健康なものは、もっと溌剌とした生活が欲しいのだ。手も足も欲望も自由に伸ばし自由に充足し得る生活が欲しいのだ。
こう叔父は考えた。そして、それがこの寺院生活のうちで達し得られぬことをこの上もなく不満に思った。
叔父はとうとう決心した。自分の法衣をずたずたに引き裂いて庫裡の床下へ投げ込んで、無断で寺を飛び出した。興津に父を頼って来たのはその時であった。そして、幸い横浜に出てみると船員の口があったので九州通いのある汽船に乗り組んだ。
海上の生活は甲州の山奥の百姓の伜には余りにも縁遠い生活であった。平和なお寺の生活からは余りにも勝手の違った辛い仕事であった。けれどその代り、涯しもない大洋と、限りない蒼空と、それから、波も、風も、オゾーンも、元気な水夫達の放埒な生活も、すべてはみな、叔父の若さを養うのには充分であった。そうして叔父は、何とも言えぬ愉快な海上生活を一ヶ月余りも続けたが、一航海を終えたので横浜に帰って来た。