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なにがわたしをこうさせたか
何が私をこうさせたか
金子 ふみ子
――獄中手記――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,571 字 · 383 页
父は、いわゆる敬して遠ざけられているといった格だったのだ。
面白いことには、父は今もなお大の迷信家らしく、居間の壁には、天井裏に近く棚が吊ってあって稲荷さんだとか荒神さんだとかが祀られてあり、毎朝それに向って礼拝をしているのだった。それから、客を通す八畳の間には床があったが、そこには何とかいう偉い坊さんが書いたのだという――そして今はその坊さんがまだ生きているから値打ちがないが、死んだら大した値打ちが出るのだと父が考えている「唯是天命」という軸が掛っていた。これも「運」信者であった父の迷信哲学が、今にまだそのまま残っているものといっていいであろう。
軸の前には「佐伯家系図」と書いた細長い函が三方に載せて安置せられ、それと並んでは、叔母が古道具屋で買って来た、しかし父のめききでは何でもたいした値打ちのものだといわれる古びた花瓶が置かれてあった。そしてその床の間に近く、表向きの障子に向っては一つの机が置かれていて、その上にはザラ紙の原稿紙や封筒や二、三冊の法律書の他に、夜店にさらされているような旧式な英和辞書がきちんと積み重ねられてあった。
父はこうした外観で、その下劣な人格や空っぽな頭やを糊塗しようとしているのであった。