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なにがわたしをこうさせたか
何が私をこうさせたか
金子 ふみ子
――獄中手記――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,571 字 · 383 页
「へえ、おいでやすが……」とその男は答えたが、うさんそうに私を眺めながら、それ以上何とも答えずに、さっさと裏口から家の中に消えてしまった。
今の男が家の中に這入って何か言うかも知れない。すると家のものが怪しがって出て来るかも知れない。そうした時の面倒さを思うと、私は何だか気味がわるくなった。仕方なく、私はまた駅の待合室まで引きかえした。
汽車の酔がまだおさまらぬところへ、頭から雨にぐしょ濡れになったので、駅に戻った時、ますます気持がわるくなってきた。そしてとうとう、汽車で食べた蜜柑をげえげえと吐いてしまった。
私はしばらくベンチの上に俯伏せになってじっとしていた。と、そこへ誰かやって来て私の名を呼んだ。私は顔をあげた。小松屋の叔父(浜松の叔母のすぐの妹の夫の弟)が私の側に立っていた。
「ふみ子さん、どうかしたんけえ、汽車に酔ったんずら……ひどく気分がわるいけえ……」
「ええ、汽車に酔ったところへ雨にずぶ濡れになったものだから……」
「そりゃいかん、ちょっと待って……」と、言いもきらないうちにその男はどこかへ消えてしまったが、じきにまた戻って来て、私に仁丹をくれた。