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なにがわたしをこうさせたか
何が私をこうさせたか
金子 ふみ子
――獄中手記――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,571 字 · 383 页
私が何と言って頼んでみても母は頑として応じないのを見た私は、とうとう、次ぎの日、中村のいないときに母にこう言った。
「ねえ母ちゃん。賢ちゃんがどうしてもお父さんのとこへ行かなきゃならないんなら、私も一緒につれてってくれない? 賢ちゃんがいなくなって私独りぼっち小父さんのところにいるのが怖いんだから……」
だが、大人には大人の理由があって、子供のそうした感情なんかてんでわからないかのように母は冷酷に私の願いを却けた。それは私には運命のようなものであった。私はとうとうその力の前に屈従しなければならなかった。
それから間もなく弟は母の背に負ぶわれて父の所へ連れて行かれた。父達はその頃、汽車に乗らなければ行けぬ静岡に住んでいた。
弟がいなくなって程なく、私たちはまた引越した。引越したと言ってもそれは他人の家に間借りしたのに相違なかった。線路脇の焼いた枕木の柵に接近した六畳と四畳半ぐらいの小さな家だったが、その六畳の方には五人家内の沖仲士か何かの一家族が住み、私達は四畳半の間に住むことになっていた。恐ろしく汚い部屋で、障子に貼った新聞紙は煤けて真っ黄色に染まり、畳は破れて腸をはみ出していた。