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なにがわたしをこうさせたか

何が私をこうさせたか

金子 ふみ子

――獄中手記――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,571 字 · 383 页

青空文庫

天神わきの小ぢんまりとした洋食屋の二階に私達は上った。朝のうちなのでお客はほかに誰もなかった。

私達はもう、全く旧いお友達のようであった。

翌日学校から帰って来てみると、玄から手紙が来ていた。白い小さい西洋封筒に「速達」と朱書きしてあった。開けてみると上等な便箋に、今夜上野の観月橋まで来て欲しいと綺麗に叮嚀に書いてあった。

残暑はまだ厳しかった。橋の上には涼を追うて集まった人々で一ぱいだった。私は鵜の目鷹の目で、左右の人々に一々眼をくばりながら橋を渡った。けれど玄の姿は一向見当らなかった。嘘を言うはずがないがと不審に思いながら私は橋を一渡りした。と、その最後の橋の袂に玄が立っていた。

「あ、ふみ子さん、よく来てくれました」と、玄はいきなり私の手を握った。

私達は公園の中を歩いた。

「僕、すっかりあなたに魅せられてしまったのです」

玄はこう私に言った。

「私もあなたは好きです」

私はこう玄に答えた。

私達はまたある小料理屋に行った。ああそしてまた私は……。

私は私の希望やら、現在の境遇やらを玄に話した。

「じゃ、二人でどこかへ家を持ちましょう」と玄は私に約束した。