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なにがわたしをこうさせたか

何が私をこうさせたか

金子 ふみ子

――獄中手記――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,571 字 · 383 页

青空文庫

それから私は、わけもなく玄に引きつけられて行った。玄に会わない日が少しつづくと寂しくてたまらなかった。そんなときには玄の後を追って彼の行きそうなところを探し歩いた。そしてとうとう玄に行き逢うことができないで疲れ果てて帰って来ることも度々あった。

大叔父の家でも私に警戒し始めた。それからはちょっと私も出にくくなった。

「家はまだ見つからない?」と私はこう玄に会うたびに訪ねた。

「毎日さがしているんだけど」と玄は、貸屋新聞をポケットから出して見せたりなんかした。

早く家を持ちたい、早く大叔父の家を出たい、こればっかりが私の願いとなった。

ある日、もう夜の九時過ぎだった。

茶の間に座って冬仕度の縫物をしていると玄から電話がかかって来た。

玄は電話で言うのだった。

「ふみちゃん? ああそう、あのね久能さんがひどい病気なのをあなた知っている? 知らないって? いや、僕も知らなかったのだがね、今ここできくと、もう危いんだって、それでね、僕これから見舞いに行こうと思ってるんだが、あなたも一緒に行かない」

久能女史はもう三十五、六の女社会主義者だった。何でもある思想家との間に二人の子までがあるのに夫を捨てて運動にとび込んでいる女だった。