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なにがわたしをこうさせたか

何が私をこうさせたか

金子 ふみ子

――獄中手記――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,571 字 · 383 页

青空文庫

『労働者セイリョフ』を感激をもって私に読ませたのも初代さんであった。『死の前夜』を貸してくれたのも初代さんであった。ベルグソンだとかスペンサアだとかヘーゲルだとかの思想の一般を、もしくは少くともその名を、知らせてくれたのも初代さんであった。中でも一番多く私の思想を導いたものは、初代さんの持つニヒリスティックな思想家の思想であった。スティルネル、アルツィバーセフ、ニイチェ、そうした人々を知ったのもこの時であった。

どんよりと曇った、今にも何か降り出しそうな空模様のした夕方だった。私は四時に店を出たが、学校の始業までにはまだ二時間もあるので、学校の近くの玄の友人の下宿を訪ねた。

「いらっしゃい」と鄭は私を見るなりすぐに「いいもの上げようと思って待っていましたよ」と机の抽斗から一通の手紙を出して私に渡した。

それは玄からの便りで、途中から私にあてたものだった。母危篤という電報で、取るものも取り敢えず出立した、そんなわけでおわかれもせずに来たが赦してくれという手紙であった。が、それは全く虚構の事実で、帰省はとうの昔からきまっていたのだった。

「ふん」と言って私はその手紙をそこに投げ出したが、もう別に腹も立たなかった。