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なにがわたしをこうさせたか

何が私をこうさせたか

金子 ふみ子

――獄中手記――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,571 字 · 383 页

青空文庫

鄭もやはりそれについては何も言わなかった。

むしろ、私が手紙を読み終るのを待っていたとでもいうように、鄭は今度は、三、四枚の印刷物を私に見せた。それは鄭が出そうとしていた菊倍八頁の月刊雑誌の校正刷で、かねてその計画を私にも話してあるものだった。

「そう? もう出来たの?」と私も鄭と共に喜びを頒ちつつ、それを手にとって見た。が、内容については私はもう知りぬいていた。鄭が常に書きためていたものを印刷にしただけのもので、私はそれを、原稿のうちに見て知っていたのだ。

ただ一つ私の眼にとまったものは、終りの方の片隅に載せられている短かい詩であった。

私はその詩を読んだ。何と力強い詩であろう。一くさり一くさりに、私の心は強く引きつけられた。そしてそれを読み終ったとき、私はまるで恍惚としているほどだった。私の胸の血は躍っている。ある力強い感動が私の全生命を高くあげていた。

私はその作者の名前を見た。私の知らない人の名前であった。朴烈というのがそれであった。誰かの変名かしらと私は思った。けれどじきに私はそれを否定した。なぜなら、この詩に値いする男を私はまだ鮮人の間に見出していなかったから。