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なにがわたしをこうさせたか
何が私をこうさせたか
金子 ふみ子
――獄中手記――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,571 字 · 383 页
「その人は何しろ、監督さんだっていうことだからね。監督さんならはばもきくから、その人を頼って行けば、わしらに同情してくれるに違いないよ。きっと何とかなるよ」
子供の私にさえはがゆいほど、母は依頼心が強かった。母は、独りでは一歩も踏み出し得ない女だった。一足歩むにも何か自分を支えてくれるものがなくてはならぬ女であった。といって私は子供である。私は母に従わなければならなかった。
製糸場に行っても、しかしいいことはなかった。第一、頼って行った人は監督でも何でもなかった。実はごく下っ端の釜番だったのにすぎなかった。でも私達はそこで三ヶ月ほどを過した。その間の記憶は不思議に何も残ってはいない。たった一つ残っているのは、ある日、朝鮮飴をもって父がひょっくりと姿を現わしたことだった。
ああ私はその時どんなに喜んだであろう。約束を守って父は私を迎えに来てくれたのに相違ない。父は私を迎えに来てくれるほど、楽な生活をしているに違いない。私はそう思った。
けれど、実際はそうではなかった。父には相違なかった。けれど何とまあ身窄らしくなった父であったろう。彼はもうゴム鞠を買ってくれた父ではなかった。