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なにがわたしをこうさせたか

何が私をこうさせたか

金子 ふみ子

――獄中手記――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,571 字 · 383 页

青空文庫

しかも父はその都度、女の肩をもって母を撲ったり蹴ったりするのを見なければならなかった。母は時たま家出した。そして、二、三日も帰って来ないことがあった。その間私は父の友だちの家に預けられたのである。

幼い私にとっては、それはかなり悲しいことであった。殊に母がいなくなった時などは一層そうであった。けれどその女はいつとはなく私の家から姿をかくした。少くとも私の記憶にはなくなってしまっている。が、その代り私は、自分の家に父の姿を見ることもまた少くなった。

私は母につれられて父をある家へ――今から考えて見るとそれは女郎屋である――迎えに行ったことを覚えている。そして、父が寝巻き姿のまま起き上って来て、母を邪慳に部屋の外へ突き出したことをも。でもたまには父は、夜更けた町を大きな声で歌をうたいながら帰って来ることもあった。そうしたとき母は従順に父の衣類を壁の釘に掛けたりなんかしていたが、袂の中からお菓子の空袋や蜜柑の皮などを取り出して、恨めしそうに眺めながら言うのだった。

「まあ、こんなものたくさん。それだのに子供に土産一つ買って来ないんだよ……」

父は無論、警察をやめていたのだ。