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よっつのみやこ

四つの都

織田 作之助

「映画評論 第一巻四号」1944(昭和19)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,005 字 · 62 页

青空文庫

があるだろう?」

葉子「えゝ、あるわ」

十吉「その中の『雨だれ』というのを掛けてみてくれ、たしか十六番だ」

鶴三「『雨だれ』なら、十八番だ、蜂谷さんの、だって、雨の音楽だろう?」

三人、笑う。

その楽しそうな、内部の雰囲気を、硝子扉の外から、覗いている少年がいる。

雨に打たれて――新吉だ、中へはいりかねている。

(扉がしまっているので、中の音楽や笑い声は聞えない)

中では『雨だれ』が鳴っている。その雨滴の如く、ポトリ/\落ちて来るリズム。

硝子扉に雫が伝っている。その扉に新吉の瞳を凝らした白い顔が吸いついているが、誰も気づかない。

十吉「巷に雨の降る如く、わが心にも雨が降る……か、こういう詩知っているかい、葉子ちゃん」

葉子「うちはハイカラな文句は何にも知らん」

鶴三「うちは流行歌は扱わない事になってますんでね」

葉子「蜂谷さんの文句、みんな雨のことばっかし」

十吉「自分でも情けないと思うよ。畜生! 処で、僕が南方へ行ってしまったら、寂しがってくれる人がいるかな」

葉子「喜ぶ人もいるわ」

十吉「誰だ、そいつは」

葉子「夜店出しのおっちゃん」

この時、店の間の小鳥が突如鳴声を立てる。