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わらわのはんせいがい

妾の半生涯

福田 英子

「妾の半生涯」東京堂、1904(明治37)年10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 64,051 字 · 122 页

青空文庫

かくて午後七時頃神戸行きの船に搭ぜしは古井、稲垣および妾の三人なりき。瀬戸内の波いと穏やかに馬関に着きしに、当時大阪に流行病あり、漸く蔓延の兆ありしかば、ここにも検疫の事行われ、一行の着物は愚か荷物も所持の品々も悉く消毒所に送られぬ。消毒の方法は硫黄にて燻べるなりとぞ、さてはと三人顔を見合すべき処なれど、初めより他の注目を恐れてただ乗合の如くに装いたれば、他の雑沓に紛れて咄嗟の間にそれとなく言葉を交え、爆発物は妾の所持品にせんといいたるに、否拙者の所持品となさん、もし発覚せばそれまでなり、潔く縛に就かんのみ、構えて同伴者たることを看破せらるる勿れと古井氏はいう。決心動かしがたしと見えたれば妾も否み兼ねて終に同氏の手荷物となし、それより港に上りて、消毒の間唯ある料理店に登り、三人それぞれに晩餐を命じけれども、心ここにあらざれば如何なる美味も喉を下らず、今や捕吏の来らんか、今や爆発の響聞えん乎と、三十分がほどを千日とも待ち詫びつ、やがて一時間ばかりを経て宿屋の若僕三人の荷物を肩に帰り来りぬ。再生の思いとはこの時の事なるべし。消毒終りて、衣類も己れの物と着換え、それより長崎行の船に乗りて名に高き玄海灘の波を破り、無事長崎に着きたるは十一月の下旬なり。