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わらわのはんせいがい
妾の半生涯
福田 英子
「妾の半生涯」東京堂、1904(明治37)年10月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 64,051 字 · 122 页
その時妾は母に向かいこれまでの養育の恩を謝して、さてその御恵みによりてもはや自活の道を得たれば、仮令今よりこの家を逐わるるとも、糊口に事を欠くべしとは覚えず。されど願うは、ただこのままに永く膝下に侍せしめ給え、学校より得る収入は悉く食費として捧げ参らせ聊か困厄の万一を補わんと、心より申し出でけるに、父母も動かしがたしと見てか、この縁談は沙汰止みとなりにき。
ああ世にはかくの如く、父兄に威圧せられて、ただ儀式的に機械的に、愛もなき男と結婚するものの多からんに、如何でこれら不幸の婦人をして、独立自営の道を得せしめてんとは、この時よりぞ妾が胸に深くも刻み付けられたる願いなりける。
結婚沙汰の止みてより、妾は一層学芸に心を籠め、学校の助教を辞して私塾を設立し、親切懇到に教授しければ、さらぬだに祖先より代々教導を以て任とし来れるわが家の名は、忽ち近郷にまで伝えられ、入学の者日に増して、間もなく一家は尊敬の焼点となりぬ。依りてある寺を借り受けて教場を開き、夜は更に昼間就学の暇なき婦女、貧家の子弟に教え、母上は習字を兄上は算術を受け持ちて妾を助け、土曜日には討論会、演説会を開きて知識の交換を謀り、旧式の教授法に反対してひたすらに進歩主義を採りぬ。