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「てらだとらひこのついそう」あとがき

寺田寅彦 わが師の追想

中谷 宇吉郎

中谷宇吉郎『寺田寅彦 わが師の追想』。同一底本的分册已合并为一书。收入:「寺田寅彦の追想」後書、実験室の思い出、墨流しの物理的研究、墨並びに硯の物理学的研究。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,239 字 · 65 页

青空文庫

皆もちょっと手持ち無沙汰な恰好で砂の割れ目を怪訝そうに見ていた。

大分経ってから先生は口を切られた。「君たち、この現象をどう思いますか。砂が崩れる時に出来た罅は、こうして逆に押し戻しても埋まらなくて、皺になって盛り上がるでしょう。こういう不可逆的な現象は、摩擦が主な役割を演じている場合に限るので、これは大変面白い現象なんです。一つ断層の研究を始めようじゃありませんか」という話であった。

先生の断層や地殻の変形に関する色々な研究というのは、その起こりはここにあったのである。そしてこの研究に芽生えた思想は、粉体の特殊な性質の研究や割れ目の理論を経て、遂に先生晩年に於ける『生命と割れ目』の論文まで、発展して行ったのである。

菓子箱の蓋の「実験」があって間もなく、ちょうどその頃私たちの実験室へ遊びに来ていた宮部君が、この実験を本式に始めることになった。本式といっても、その装置というのは紙箱の一側面を硝子板にして、その隣の面を移動出来る壁にしただけである。その中に砂を深さ五分ばかり入れてならし、その上に白砂糖を薄く撒いてまた砂を入れるという風に何段にもして、砂を一杯入れるのである。