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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页
その部屋からは、中庭の端しか見えない。向うは赭土の崖で、庭は右へと広くなっているが、ここからの眺めは、ひと跨ぎの芝生と、鼻につかえそうな崖であった。
女の声は、右のほうで聞えた。それはいかにも嬌声という感じの、きらきらする声であったが、しだいにこちらへ近くなって来、やがて、その狭い庭の中へ、一人の若者が現われた。……それは五番町の遠藤千之助であった。
半之助はぼんやりと彼を見た。そんなところへ、どうして千之助が現われたか、まるで理解がつかなかったのだ。
「やあ、しばらく」
千之助はこっちを認め、例の人をばかにしたような、うす笑いをしながら云った。
「御栄転だそうですね、御薬園だというじゃありませんか、やっぱり土を掘ったりこやしを撒いたりするんですか」
万事承知のいやがらせである。
だがそこへ、この家の二女の、佐枝が現われた。つまり、はでな声は彼女であって、千之助を追って来たわけだろう。半之助などは見向きもせず、しかし充分以上に意識して、「だめですわ、遠藤さま、貴方の番じゃございませんの、ねえ、早くいらしって」
ねばねばするような甘い声で、しかも千之助の腕を取って、しなしなと躯をくねらせた。