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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页
気の勝った、はきはきした彼女には、ついぞみたことのない、なまめいたしぐさである。
「しょうのない甘えん坊だ」
千之助は眉をひそめながら、極めて親密な態度で、佐枝の引くままに、庭の向うへ去っていった。
「どういうことだ」
半之助は思わず呟いた。
昌雲寺で法事のあったとき、千之助と冲左衛門が知りあったことは、千之助の口から聞いたけれど、彼がどうして谷町へ出入りするようになり、いつそんなにも親しくなったか、半之助には想像ができなかった。
もちろん、それは今の半之助にとっては、縁のないことである。単に縁がないばかりでなく、佐枝のようすでみると、その親密さには、わけがありそうだ。
――ことによると。
婚約、ということが、考えられた。
なんでもない仲にしては、あの声つきや、なまめかしいそぶりは、(誇張とみせつけはあるにしても)ちょっと度が過ぎている。もしもそうとしたら、半之助にとっては、儲けものといえよう。難関は縁談にあったのだし、先方の条件がそう変っていれば、なによりいやな問答が避けられるだろう。
「そうあって呉れるといいが」ついまたそう呟いた。
冲左衛門はずかずかと来て、坐るとき、荒ら荒らしく袴をさばいた。