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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页
という一棟で、松林と竹藪に囲まれ、北がわに迫っている丘の中腹から、筧でひいた水が、台所と縁先とに、絶えず爽やかに溢れていた。
お小屋には、村野市造という、中年者の下役と、小者が三人いた。
もう一棟には、小石川御薬園からまわされて来た、植木職人たち五人が住み、他の一棟には、二頭の馬の世話をする小者と、栽地の力仕事をする人足が五人いた。
もともと此処は、小石川の分園として設けられたもので(やがては全部を移す筈であったが実現しなかった)、半之助は此処の支配であると同時に、薬園奉行所の「見廻り」という役名をも兼ねていた。尤もこれは、定期に小石川へ報告に出頭する責任を持つことであるが、まだじっさいに仕事が始まっていないので、当分はその必要がなかったわけである。
村野市造は四十五六であろう、吹上に御薬園のあった頃から、その仕事をしていたそうで、口かずは少ないが、その方面のことには詳しかった。日にやけた、顔の小さな、猫背の、年よりは老けてみえる人がらで、酒がなにより好物だと云った。
「家内と子供が五人おりますので、こちらへまいると御役料を頂けるのですが、なかなか酒までは手が届きません」