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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

夕食に酒をつけてやると、そんなふうに云いながら、さも貴重そうに、盃のふちを舐めるように啜るのであった。

「なあに、私がすっかり引受けます、貴方に世話はかけません、ただ見ていて下さればようございます」

酔うと朴訥な調子で、よくそんなふうに云った。

「草木などというやつも、人間の子供たちと同じでしてな、絶えず眼のたまをむいていなければならぬやつと、そっぽを向いて、知らん顔をしているほうがいいやつとあります、可愛いのもあれば、憎らしいのもあります、そこはまあ面白いもんですが、しかし、しょせん、お若い貴方などにはな、なんといっても……」

村野の酒は一合五勺がせいぜいで、殆んどその量を越すことはなかった。

その年は、梅雨あけから照り続けで、秋の豊作はまちがいなし、といわれていた。天文方では早くから、秋ぐちに淋雨が来る、と予告していたそうであるが、その予告を証明するかのように、半之助が駒場へ移った翌日から、にわかに気温が下り、じめじめする陰気な雨が降りだして、それが三日五日と続き、いつあがるけしきもなかった。

ちょうど七日めの午後に、思いがけなく正木重兵衛が訪ねて来た。