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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

その池の水は澄んでいる筈である、そんなふうに濁るわけがないのである。それから、池畔を囲んでいる林もおかしい、どんなぐあいにおかしいかは、ちょっと云えないが、なにか不安定で、ざわざわしたものが感じられる。こういう意味のことを、平四郎はゆっくりと、手まねをいれながら、説明した。

「それはきっと、あれですよ」主馬はこともなげに云った、「かんば沢の大崩壊で、この辺の地盤がいったいに……」

平四郎がふり返った。主馬もふり返った。そして、二人とも(主馬のほうが先に)走りだした。おーい、という声。いたいた、という叫びが、すぐ向うの、茅戸山の中腹の、林の中から聞えて来たのである。

「どこだ――」

走りながら、主馬が喚いた。

彼は声をめあてに、林の中へとびこんだ。そこはかなり急な斜面で、木の下枝がびっしりとさし交わし、また下生えの笹が、地面を掩っているので、うっかりすると足が滑った。

「此処です、こっちです」

声はすぐそこに聞え、捕方の者が五六人、集まっているのが見えた。

二

「どうした、捕ったか」

こう叫びながら、主馬がそっちへ、近よっていった。

捕方の者たちは、左右にひらいた。