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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页
けがらわしい、などという表現とはまったく縁のない、たおやかに美しい人であった。
甲府から初めて出て来たときも、叔父は五番町へは孫七という下僕をやり、自分は赤坂一つ木の安倍の家に旅装を解いた。
家族とのこうした不和が、どんな理由によるかということは、半之助はもちろん無関心であった。ずっとのちになって、おぼろげに察しはついたが、それをもっとはっきり知りたいとは、決して思わなかった。但しその不和のために、後日、叔父がふしぎな失踪をしたとき、その遺品が五番町でなく、安倍の家に託され、ひいては半之助の運命をも変えることになったのではあるが――。
さてその日の夕餉は、久方ぶりの叔父をかこんで、賑やかに話がはずんだ。
話題はしぜん、甲府のことが中心であった。半之助はそのなかで、「隠し言葉」「隠し草鞋」「隠し湯」などということを、面白く聞いた。それは、甲斐の国には温泉が七つあるが、みんな所在が秘密にされていたこと。「ゆこう」と云うばあいに「ゆかず」と、反対に云うこと。また草鞋は前うしろが逆に作ってあり、したがって地面には足跡が逆になって残ること、などであった。……半之助はびっくりして、思わずこう質問した。