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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页
「どうしてそんなにみんな隠なしちゃうんですか」
叔父は笑って、「それがねえ、みんな武田信玄の計略だっていうことだよ」
言葉で敵の耳をくらまし、足跡で敵の眼をくらます。というわけだそうである。また甲府周辺の言語や風俗には、信玄にむすびつけて伝承されるものが少なくない。たとえば「叱られる」ということを方言で「よまあれる」というが、これは信玄が家来の過失を書きとめておいて、適当なときに、まとめて読み聞かす、――おまえは某月某日これこれの失策をした、某月某日にはしかじか、某月某日には、というぐあいに叱る。つまり読みあげられる、読まれるという意味だそうで、ほかにもこれに類することは驚くほど多い、と叔父は云った。
「もちろん真偽のところはわかりません、おそらく付会したものでしょう、信玄を敬慕する感情からうまれたんでしょうが、とにかく土着民の信玄を崇拝することは、殆んど宗教的といっていいほど、根づよいものです」
「それだけ武田氏の治世が長かったんだね、六百年か七百年は続いたんだろう」
「六百年が少し欠けるくらいでしょうかね」
それからまた、信玄の石棺、という話が出た。