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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

――生れてきたこと、生きていることを、祝福したくなるようなもの。

――そして、彼でなければ、それは為し得ないし、彼のためにだけ、存在するようなもの。

そういうなにかが、有る筈であった。

しかしどうやらそれは、若さの空想でしかない、ということになりかかっていた。日々の単調な事務や、同じ役所の同僚たちが、現実に、その証拠を示していた。いつか、机を並べている、金井なにがしという同僚が、にやにや笑いながら、こんなことを云った。

――そんなにあせってもむだですよ、世間にはもっといろいろな生き方がある、第一歩から始めて、しだいに発展して、やがて実をむすぶ、というようなのがね。

――だがわれわれは始めから、目的地に立たされるわけです、いってみれば水のいっぱい詰った壜のようなもので、いま生活しているこの状態が、このままで終りまで続く、ここからさきにはなんにも無い、壜はいっぱいで、一滴の水を加えることもできないんですよ、まあゆっくりやるんですな。

そのとき半之助は答えた。

――誰も彼もが、その壜をごしょう大事に、持っているとは限らないでしょう、私なら、ときには中の水をぶちまける、くらいのことは、やってみたいですね。