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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页
「覚えたぞ、その顔……」ぐいと主馬を指さした。
だが主馬はやはり無言のまま、やさしいような眼つきで、じっと相手を眺めていた。
半之助は次高の顔に、ふと凶暴な色がはしるのを見た。ほんの一瞬のことであるが、ごく卑しい、殺意に似たその表情は、忘れることのできないものであった。ついで彼は、自分の鼻を指さし、「おれの、この顔も、覚えておけ」
こう云って、せせら笑いをしながら、去っていった。その足音が、聞えなくなるのを待ちかねて、半之助は主馬にふり返った。
「どういうことなんだ」
「と云われても、ちょっと困るが、ともかく、失敬したようなことになって、悪かった」
「出ようじゃないか」
「まあ待って呉れ、話も残っているし、すぐに帰るというのはまずいんだ、なに、もう大丈夫だよ」
主馬は済まなそうに、だがおちつきはらって、次高のあけた障子を、立っていって、さらに大きく左右へあけた。
「どこまで話したか、ああ、村田は長崎などへゆかなかった、というところまでだな」
「そんな声をだしていいのか」
「もちろんさ」
主馬は軽侮の身ぶりをした。
「かれらは針の穴から覗くことは好きだが、あけひろげた窓を見る知恵はありゃしない、それに、いまのあれだって単純なおどかしで、なにも知ってるわけじゃないんだ」