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さこんのいかり

左近の怒り

坂口 安吾

「講談倶楽部 第六巻第九号~第一一号」1954(昭和29)年7月1日~9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,454 字 · 95 页

青空文庫

そしてそれは左近に片棒かつがせたという女賊の面影に通じるものがあるような気もしたのであった。

「左近さんのお話は本当なのだ。あの女の人が女賊かしら? そうだとすると、どういうことになるのだろう。自動車は戻って行った。白昼自動車を横づけにして……」

葉子の頭は混乱した。とにかく急いで戻らなければならない。あまりにも異様すぎる。左近の身に何か危険が迫っているような気がする。海のことしか知らない左近は葉子にでも気がつくような平凡な人生にすら不案内かも知れないのだ。駈けこむように大竜出版へ戻った葉子は、

「白雲荘は実在したわ。昨夜のこと、もっとよく教えてちょうだい。近所の話ではふだんは人の住まない別荘なのよ。ところが私が門前にいたとき、緑の高級車が横づけになって美しい女の人がクグリ戸をあけて邸内へ消えたのよ。あなたの女スパイッてどんな人? 五尺二三寸のスラリとした人じゃない? 女優のように美しい人」

「五尺二三寸のスラリとした人か。ま、そんなふうだな。女優のような美しい人か。ま、そんなところかな」

「おかしいじゃないの。その人が白昼自動車でのりつけるなんて。ね、だから私はこう思うのよ。