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かげおとこ
影男
江戸川 乱歩
「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页
きらびやかな色彩に取りまかれて、殿村遊蕩紳士は、酒杯を重ね、女たちの和洋とりどりの冗談に応酬し、舌頭の火花に興じていた。
フロアにはアクロバット・ショーが演じられていた。全身に金粉を塗った三人の美女が、キラキラ光りながら、ヘビのアクロバット踊りを踊っていた。立っているひとりの胸にもうひとりの黄金女が、大蛇のように巻きついて、首と胸とに顔のある一身二頭の異形の舞踊を踊っていた。
そのショーの舞台には、赤、青、黄色と、五色の照明が交錯し、客席からはテープ花火がポンポンと発射され、五彩のテープが三人の金色の踊り子の頭上に雨と降り、無数の巨大なゴム風船が、五色のクラゲの群れのように空間を漂い、はでなバンドの気ちがいめいた奏楽が、ギラギラした色彩の混乱と相応じて、場内数百人の男女を狂気の陶酔に導いていた。
耳もろうする奏楽、テープの発射音、泥酔男の蛮声、女たちの嬌声の中に、ふと、異様なささやき声が、影男の殿村の耳たぶをくすぐった。
ひょいと顔を向けると、そこに、白髪白髯の老人の顔があった。かつらのようなまっしろなふさふさした髪、ぴんとはねあがったまっしろな口ひげ、胸までたれたみごとな白ひげ、黒いセビロを着た上品なおじいさんだ。