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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

かれはゾクゾクするほどうれしくなってきた。

見ていると、池の中から突き出した潜望鏡がぐんぐん伸びていた。もう三尺を越す長さになっていた。すると、そのとき、池の水が異様に動いて、何か大きなものが浮き上がってくるように感じられた。

黒い怪物がニューッと頭をもたげた。さし渡し一メートル以上もあるような、黒い円筒形のものである。その表面は平らになっていて、すみのほうから、さっきの潜望鏡が突き出ていた。やっぱり、潜航艇の司令塔のてっぺんのような感じである。では、こんな小さな池の中に、潜航艇が沈んでいたのであろうか。

「ほんものの潜航艇ですか」

「いや、そうじゃありません。これだけのものです。あの太い円筒形のシリンダーが、出たりはいったりするだけですよ。そして、これが目的地への、たった一つの出入り口になっているのです」

「目的地というと」

「あんたに見せるもののある場所です。天国と地獄です」

機敏な影男は、たちまちその意味を察した。目的の場所は、地底にあるのだ。そして、この池の中のシリンダーは、そこへの入り口なのだ。いつもは池の中に沈んでいるので、こんなところに出入り口があるとは、だれも考えない。