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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

お互いに個人の秘密を尊重するというのが、自由主義者のモットーであった。医師が患者の病状を他人には絶対に口外しないという、あの秘密主義が自由主義者の考え方であった。したがって、かれのこの探求は、自由主義の世界ではスパイ行為として極度にけいべつせられるばかりか、多くの場合犯罪でさえあった。その意味で、いや、その意味以上に、かれは犯罪者であった。

人間というものは、たったひとりでいるとき、そばに人目のないときには、どんな異様な行為をするかわからないということを、かれは自分の体験から割り出して知悉していた。体験ばかりでなく、かれがそういう生活をはじめてからの数々の経験が、これを証明していた。表側の人間と裏側の人間とが、どんなにちがっているか、それを知ることは、怪談のように恐ろしかった。手袋を裏返すように、人間を裏返すと、そこには思いもよらない奇怪な臓物が付着していた。かれはそういう裏返しの人間を見ることに、こよなき興味を持った。つまり、かれの探求欲は、唾棄すべきスパイ精神と相通ずるものがあったのである。

この探求には副産物があった。富裕な人間の裏側を見たときには、それを武器として、相手から多額の金銭をゆすり取ることができた。