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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

そして、いっそう狂暴な舞踊がつづき、ふたりのからだが、あるいははなれ、あるいは接するたびごとに、スーッと一筋、また一筋、キツネ色の皮膚にも、純白の皮膚にも、まっかな血潮の川が流れた。

見つめる影男は、この絶妙の趣向に手を打って感嘆した。これまでのあらゆる驚異に、ただ一つ欠けている色彩があった。それは深紅の色であった。血の刺激であった。今、その血が流されようとしているのだ。かれの心臓は、何物かから解きはなされたように、ドキドキとおどりだした。原始人の本能が、かれの体内によみがえり、胸いっぱいの快哉を絶叫していた。

音楽も踊りも狂暴の絶頂に達した。白い女体は、こけつまろびつ逃げまわり、寸隙を見ては、疾風のように男に飛びかかっていった。二本の短剣は空中に切りむすび、いなずまのようにギラギラときらめき、男体、女体ともに、額にも、ほおにも、肩にも、腕にも、乳ぶさにも、腹にも、背にも、腰にも、しりにも、ももにも、全身のあらゆる個所に無数の赤い筋がつき、そこから流れ出すあざやかな血潮が、舞踊につれて、あるいは斜めに、あるいは横に、あるいは縦に、流れ流れて、美しい網目を作り、ふたりの全身をおおいつくしてしまった。