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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

影男はその長イスのひじ掛けに身をもたせて、最も安易な姿勢をとり、かれを導いた男は、その向こう側のアームチェアに、行儀よく腰かけた。まったく露出光のない間接照明で、広いへやがいぶし銀のように輝いていた。

その男は四十歳ぐらいに見えた。色白で、よく太っていて、まるまるした顔に、かっこうのよいちょびひげをたくわえていた。口もとが女のようにやさしくて、異常に赤いくちびるをしていた。太いけれど薄いまゆの下の二重まぶたの大きな目が敏捷に動いた。いきな仕立てのダブルブレストの新しい服を着て、ブライヤのパイプを口から離さなかった。

そこへ、まっかな洋服を着た十五、六歳のかわいらしい少女が、いろいろな洋酒のびんを並べた銀色の手押し車を押してはいってきた。

「お好みのものをどうぞ。それから、ここにフィガロ・タバコもございます」

影男は、いわれるままに、エジプトの紙巻きタバコをとり、少女のさし出すライターの火をつけた。それから、ブランデーをつがせて、二口に飲み、おかわりを命じた。タバコも酒も極上の口あたりで、さきほどからの刺激の連続に疲れ果てたからだが、しゃんとするような快感をおぼえた。