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かげおとこ
影男
江戸川 乱歩
「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页
名にし負う影男には、「高嶺の花」なんていうものはなかった。かれの字引きには「不可能」という文字がないのだから、どんな女性だって、手に入れようと思えば、必ず手に入れる力を持っていた。また、事実、手にも入れていた。かれはサルタンの後宮にも比すべき数十人の恋人があった。電話一本で、いつでもはせ参ずる美姫の群れを所有していた。そのなかには、普通では絶対に近よることもできないような、高貴、高名の異性も幾人か交じっていた。
「恋人誘拐引き受け業とはおもしろいですね。それなら、五十万は実にやすいもんだ。どんなむずかしい相手でも、即座に誘拐してみせるというのですからね。せっかくですが、ぼくにはその必要がない。ぼくは自分でやるほうがおもしろい。そして、必ずやってみせる技術を持っているのです。だから、実際に誘拐してくださるには及びません。お話が伺いたい。あなたのやり方が聞きたい。それだけでいいのです。つまり、五十万円の権利を放棄する代わりに、最もおもしろそうな実例を一、二お聞かせねがいたいというわけですよ」
影男の恬淡ぶりが、ちょびひげ紳士をびっくりさせた。かれは西洋流に両手を横に広げるゼスチュアをしてみせて、