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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

ていた。

つまり、保護色なのである。動物や昆虫の保護色の原理を、色シャツの手早い取り替えという方法で応用したのである。ごく薄手のメリヤスだから、何枚重ねてもたいしてからだがふくらむわけではない。そのつどつど、いくつかの背景にふさわしい色シャツを適当に組み合わせて重ね着し、とっさにそれを脱いだり、別の色シャツを上から着こんだりして、動物界の体色の変化と同じ働きをさせるので、その脱いだり着たりする手早さには修練を要したし、シャツとズボンの作り方にもさまざまのくふうが必要であった。

古い建物の壁に住む、おしつぶしたように平べったい灰色の大グモがある。あの灰色のからだが、やっぱり保護色で、古壁の色と見わけがつかず、あの大グモが目にもとまらぬ早さで壁をはいまわる様子は、なんだかかすみのようで、虫類遁形の術という感じだが、影男速水荘吉の色シャツ応用の隠身術は、あの平グモにそっくりであった。

これは影男の技術のほんの一例にすぎないが、まあそういうふうな奇術と曲芸に類する数々の隠身術を発明し、それぞれの道具をくふうしていたのである。

かれの人間裏返しの探求には、いま一つの副産物があった。