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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

お聞きになるでしょう」

良子が小間使いを引き合わせておいて、雄弁に説明した。

「それは、よく来てくれた。今夜は何も約束がないから、ゆっくり話が聞ける。川波さんのうちに、何かあったの?」

川波良斎という漢方医みたいな名の男は、戦後成金として世に知られていた。表面は製薬工場主であったが、裏面では何をやっているかわからなかった。長者番付の三十位までにはいるほどの資産家だった。

「川波さんていう人、ご存じ?」

良子がたずねる。

「いや、名まえしか知らない」

「千代ちゃんに聞くと、なんだか気味のわるい人よ。おそろしく執念深い、ヘビみたいな人らしいのよ」

「金もうけの天才には、変わり者が多いね」

「それが並みたいていじゃないらしいのよ。じっと見られると身がすくむような目をしているっていうし、うちの中を歩くのもヘビのような感じで、足音がしないんですって」

「それで何かあったの?」

「なんだかゾーッとするようなことらしいのよ。千代ちゃん、お話ししてあげて」

小間使いの千代は、それまでうつむいていたが、呼びかけられて、ハッとしたように顔をあげた。青ざめた顔に、目だけがギラギラ光っている。