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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

黒い影は、そのやみの中を、忍術使いのように、ちろちろと消えたり現われたりしながら、綱をめぐらした裏庭へはいっていった。

裏庭には樹木にかこまれた十坪ほどのあき地があった。この辺は座敷から見えないので、手入れが行き届かないのか、一面に雑草がはえていた。

影男は一本の太い木の幹にかくれて、その雑草のあき地をじっと見つめた。常夜灯の光はほとんど届かないが、目が慣れるにしたがって、曇り空にもほのあかりがあるので、地面が見わけられるようになってきた。

そこにはえているのは、二、三寸の短い雑草ばかりだったが、その平らなあき地に、二つの丸い大きな石ころがころがっていた。よく見ていると、その石ころが、生きもののように、かすかに動いていることがわかった。

影男は木の陰にしゃがんで、二つの石ころに目を凝らした。石ころには目と鼻と口とがあった。一つは男の顔、一つは女の顔をしていた。男のほうは、もじゃもじゃに乱れた髪の下に、濃いまゆと、大きな目と、彫刻のような鼻と、くいしばった口があった。女のほうは、カールの髪が乱れて、顔にかかっていた。ゾッとするほど美しい顔だった。やみの中にも、彼女の顔だけが白く浮き出しているように見えた。