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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

衣装ばかりでなく、顔面や頭髪などにも、絶えず化身の術を応用し、場合によっては七十歳の老人にも、二十代の美女にも化ける才能を持っていた。

遁形術者のかれは、住まいも一定しているはずはなかった。同時に、多くの居どころを持っていたが、それに限定されるわけではなく、あらゆる場所がかれの住まいとなりえた。帝国ホテルも、山谷あたりのドヤ街の木賃宿も、上野公園のベンチでさえも、お茶の水渓谷の洞窟でさえも、差別なくかれの住まいとなりえた。

かれはまた、多くの恋人を持っていた。そして、そのおのおのの恋人が、自分こそかれの唯一の愛人だと信じていた。かれの恋人のなかには、十七歳の美少年さえ含まれていた。それらの恋人を、かれは人間探求事業の助手として巧みに駆使していた。恋人たちはお互いにほとんど知り合っていなかった。

張ホテルの秘密室で、S県の多額納税者、此村大膳の醜態を三十六枚のフィルムに撮影した結果は、上々の首尾であった。まず書留親展の手紙にその写真の一枚を封入して送っておいて、此村の自宅に電話をかけ、ゆすりの金の受け渡しの時間と場所を指定すると、相手は一言もなく三百万円の金包みを持って、みずからその場所へ出向いてきた。