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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

くちびるとくちびるとがぬめぬめと交錯した。

「ふふん、やっぱり媚びてやあがる。くちびるでおれをごまかそうとしてやあがる。それほどいのちが惜しいのか」うしろをふりむいて、「おい、篠田、見たか。この女はおれに接吻を返したぞ。くちびるで、ほんとにおれが好きだったといっているぞ。ざまあ見ろ。女ってこんなもんだ。だが、おきのどくだが、そのくらいのことで、おれの虫は納まらないぞ。殺してやるのだ。ふたりともぞんぶんにいじめたうえで、殺してやる。鎌とはさみで、雑草のように、その首を刈りとってやる。そして、二つの首は離ればなれに地中深くうずめて、その上からコンクリートを流してやる。コンクリートの池を造るのだ。きさまたちの首は、池の下で、ウジムシにくわれるのだ」

狂人はそれだけしゃべると、いくらか虫が納まったのか、しばらくだまりこんでいたが、ゆっくりと立ち上がった。そして、そこにほうり出してあった大鎌を拾いとった。

曇り空の薄あかりが、巨大な鎌をふるう死に神の姿を映し出した。刃わたり二尺もある大鎌が、あのとぎすました刃が、青白くきらめき渡った。狂人はそれを縦横に振りまわしているのだ。