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かげおとこ
影男
江戸川 乱歩
「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页
やがて、大鎌も草刈りばさみも、思うぞんぶん良斎をからかったあとで、ついにやみの空中に消え去ってしまった。良斎は地上にしりもちをついて、ぐったりとなっていた。気ちがい踊りに疲れはてたのだ。
すると、そのとき、またしても不思議なことがおこった。やみの木立ちの中に、一匹の巨大なクモが現われたのだ。
全身まっくろで、目と口のところだけ三角の小さな穴があいている。手足は四本しかない。そいつが立ち上がって、歩いているのだ。手から黒い糸がくり出される。おしりではなくて、手の中からクモの糸が出る。その糸で、気ちがい良斎のからだを、グルグルまきつけているのだ。
良斎はしりもちをついたままぼんやりしていたので、やみの中の黒い怪物を見わけることができなかった。二本足で立ち上がった巨大なクモが、かれのまわりをグルグル回っているのを、少しも気づかなかった。
そのうちに、良斎のからだが、グイグイと、一方の大きな木の幹のほうへひっぱられていった。黒い絹糸のようなもので、かれのからだを十重二十重にまきつけて、それで木の幹のほうへひっぱられるので、痛さに、知らず知らずじりじりとそのほうへいざっていく。