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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

「アハハハハハ、二百万が惜しいのですか。それとも、このふたりの命を助けたうえ、金までやるのがくやしいというのですか。だが、よく考えてごらんなさい。このふたりは生活能力がないのです。このままほうり出したら、やけになって、あんたを警察に訴えるかもしれない。その口ふさぎですよ。楽な生活ができれば、恨みも忘れようというものです。これもみんなあんた自身の安全をはかるためだ。そう思えば安いものじゃありませんか、さあ、署名をしてください。金額は二百万円です」

良斎は金もうけの達人だから、利害の打算は早かった。いわれてみれば、けっきょくそのほうが得だと考えたのであろう。しぶしぶ小切手帳を手に取ると、金額を書き入れ、署名をした。

影男は、それに捺印して、その一枚を切り取ると、実印と小切手帳と万年筆を良斎のふところにねじこみ、また細引きを厳重に縛りなおして、身動きもできないようにしたうえ、手ぬぐいを取り出して、さるぐつわまではめてしまった。

「このうち百万円は、たしかにふたりに渡します。そして、今夜のことは水に流すように申しつけます。けっしてご心配には及びません」

影男はそれからシャベルをふるって、土を掘りはじめた。