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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

そこの地面にころがっているぼろぼろの物体は、五十五、六歳に見える一個の人間であった。よごれてよれよれになったカーキ色の上着の胸がはだけ、中から無数に破れ穴のある茶色の毛糸のチョッキがのぞいていた。ズボンはすその裂けた黒ラシャで、ちびたサンダルげたが足もとにころがっていた。

しらがまじりのもじゃもじゃ頭、無精ひげでうす黒い紫色の太った顔、太っているだけにいっそうみじめな、どこか好人物らしい酔っぱらいであった。その男は、ぶっ倒れたまま、何かブツブツつぶやきながら、起き上がろうともしない。起き上がる力もないらしく見えた。どこか、ひどく打ったのかもしれない。

しばらく立ちどまって見ていても、だれも助け起こしてやる者もない。通行の人たちは、まるで別世界の人種のように、そしらぬ顔で通りすぎていく。速水は見かねて、そのぼろぼろのかたまりに近より、両手をわきの下に入れて抱き起こしてやった。

「しっかりしたまえ。うちはどこだ」

すると、みじめな五十男は、口をモガモガやっていたが、速水のしゃんとした身なりを見て、少しおそれをなした表情になり、やっと意味のとれる口をきいた。