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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

「あら、ちょっと……」

美与子がそれを止めるようなしぐさをしながら、妙にのどにつまったような声でいった。

「なぜ」と目できくと、

「気のせいでしょうか。なんだか変だわ。探偵小説のことを思い出したの。西洋の探偵小説に、毒入りチョコレートを贈って、人を殺す話があるでしょう。このあいだから、あんなことがつづいたんだから、気になるのよ。このチョコレート、あぶないと思うわ」

昌吉は笑いだした。

「ハハハハハ、きみはほんとうに、どうかしているよ。速水さんはぼくらを助けてくれた人じゃないか。その速水さんが、ぼくらを殺そうとするはずがないよ」

「だから、速水さんの名をかたって、あたしたちをゆだんさせようとしたのかもわからないわ」

「じゃあ、これを送ったのは速水さんじゃないというの?」

昌吉もしんけんな顔になった。

「速水さんに電話をかけて、たしかめてみるわ。それまで、たべないでね」

美与子は大急ぎで下の電話室へ降りていったが、しばらくすると、青ざめた顔でもどってきた。

「やっぱりそうだったわ。速水さん、送った覚えがないんですって。そして、アパートを変わるほうがいいっていってたわ。